大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成元年(行コ)119号 判決 1990年8月29日

東京都目黒区柿の木坂三丁目五番二号

控訴人

島村孝

右訴訟代理人弁護士

石田義俊

佐藤孝一

東京都目黒区中目黒五丁目二七番一六号

被控訴人

目黒税務署長

伊藤弘邦

右指定代理人

浅野晴美

石黒邦夫

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決を取消す。

2  (主位的請求)

一 被控訴人が昭和五六年三月二五日付でした、控訴人の昭和五二年分所得税の更正のうち総所得金額二六二万二〇〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。

二 被控訴人が昭和五五年一〇月七日付でした、控訴人の昭和五四年分所得税の更正のうち総所得金額二五七万四〇〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。

3  (予備的請求)

被控訴人が昭和六二年七月八日付でした、控訴人の昭和五二年分及び昭和五四年分の所得税についての昭和六一年六月二日付の更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分を取り消す。

4  訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

本件控訴を棄却する。

第二  当事者双方の事実の主張は、次のとおり付加するほか、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

1  原判決書五枚目裏八行目「結果、」の次に「昭和五八年一一月一四日に」を加える。

2  原判決書五枚面裏四行目末尾に「そのため、控訴人は、昭和六一年六月二日、所得税法一五二条により、更正の請求を行ったものである。」を加える。

3  原判決書六枚目表九行目末尾に「そして、本件各課税処分と本件通知処分とはそれぞれ別個独立の行政処分であって、それぞれに対する出訴期間も別個に考慮すべきものである。」を加える。

4  原判決書六枚面裏三行目中「同年」を「平成元年」に改め、同八行目末尾に「また、本件各課税処分と本件通知処分とに対する各取消訴訟は、訴訟物を異にするばかりでなく、実質的にも同一の争訟とはいえない(控訴人のいう求償債権が仮に同一のものであるとしても、予備的請求の審理では各課税処分確定後に新たな事由が生じたといえるかどうかが問題とされることになるが、主位的請求では新たな事由は主張できない)から、本件各課税処分に対する取消訴訟提起時を基準として本件通知処分に対する取消訴訟も提起されたと解して出訴期間を遵守しているとみる余地もない。」を加える。

5  原判決書七枚目表六行目中「しかし、」の次に「控訴人がコバリに対する求償債権を放棄したのは、それにより所得税法六四条二項の適用を受けられるものと誤信したためであり、求償債権の放棄は錯誤により無効である。それゆえ控訴人とコバリは前記即決和解において右求償債権が消滅していないことを確認したのである。したがって、平成元年三月二八日付けの裁決の審理対象として控訴人が主張している求償債権は、当初放棄した求償債権と同一であり、本件各課税処分の審理対象となっている求償債権とも全く同一である。」を加える。

第三  証拠の関係は、原審並びに当審における記録中の書証目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  当裁判所も、控訴人の本件訴えはいずれも不適法であるので却下すべきであると判断する。その理由は、次のとおり付加するほか、原判決の理由に説示するところと同一であるから、これを引用する。

1  原判決書九枚目裏三行目中「原告は、」の次に「平成元年三月二八日付けの裁決の審理対象として控訴人が主張している求償債権は、当初放棄した求償債権と同一であり、本件各課税処分の審理対象となっている求償債権とも全く同一であるとして、」を加える。

2  原判決書九枚目裏八行目中「主張するが、」を「主張する。しかし、控訴人は各課税処分については、求償債権を放棄したことを前提として放棄当時のコバリの弁済能力の有無を争っていたのに対し、本件通知処分についてはその放棄の無効を前提として新たな事由の発生を主張して争ったものであって、実質的な争点を異にするばかりでなく、成立に争いのない甲第一号証によれば、控訴人がコバリに対し一旦求償債権を放棄したことにより、コバリは右求償債権の放棄を受けたことを原因とする債務免除益を計上して法人税の確定申告書を提出しており、右求償債権については放棄により求償債権は消滅したことを前提として、それに応じた税法上の処理がなされてその効果も確定していることが認められる。したがって、控訴人が各課税処分の確定を前提としてその後法規の無効を理由に、控訴人とコバリとの間で同一内容の求償債権を復活させる合意をしたとしても、いまさら求償債権の放棄を前提とする各課税処分の効力を覆す根拠となるものではなく、税務処理上はせいぜい同額の新たな債権を発生させたものとして処理されるに止まるものというべきである。右復活の合意に基づく債権をもって一旦消滅した求償債権と同一視することはできず、平成元年三月二八日付けの裁決の審理対象として控訴人が主張している求償債権は、当初放棄した求償債権、すなわち、本件各課税処分の審理対象となっている求償債権と同一であるとの主張は採用できない。そうすると、」に改める。

3  原判決書一一枚目表一〇行目の「また、主位的請求と」を「そして、右予備的請求は、前記判示のとおり、主位的請求とは実質的な争点も異にしていて」に改める。

二  以上のとおりであるから、控訴人の本件訴えをいずれも却下した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 上谷清 裁判官 満田明彦 裁判官 亀川清長)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例